2017年 11月号  「山下英三郎さんのお話をきいて」 

  
山下さんは、日本におけるスクールソーシャルワーカー(以下SSW)第1号で
 いらっしゃるとのことで、ということは日本で一番長い年月、SSWとして若者
 たちと触れ合ってきた方になります。その年月の間になさってこられた事に
 ついては、何時間を費やしても語り切れない、しかし語れる限りは語りたい、
 という感じが溢れていた講演会でした。
  山下さんはアメリカでSSWの資格をとり、日本に帰国後、所沢でSSWの仕事
 を始められたのですが、その時点では日本でSSWとして関わった若者は一人
 もいなかったそうです。普通なら、その状況でいきなり仕事に入るのは大きな
 不安を感じて当然なのですが、山下さんはあまり不安を感じなかったそうです。
 それは結果的に、たとえ経験がなくても相手に誠実に対していれば相手が自分
 をSSWにしてくれる、つまり、まわりの人々によってSSWにしてもらえるものだ
 から、とのことでした。山下さんのSSWとしての基本姿勢がよくわかりました。
 そういう姿勢だからこそ、失礼ながら未経験者としての不安や問題を乗り越え
 ていかれたのではないかと思います。
  日本の子ども人口は年々減少しているにもかかわらず、不登校の生徒の占め
 る割合は毎年ほぼ13%とほとんど変化がありません。山下さんは、これは学校や
 社会において大人が子どもの声に耳を傾けていない証拠であり、子どもたちに
 対して大人は上下関係ではなく共に考える伴走者としてありたいとおっしゃいま
 した。専門家に傷つけられた子どもも少なくはない状況で、子どもたちの話を聴
 く時には、その子の体験を否定しないことが大切であるし、常に道を開いていく
 ような相談が望ましいこと、また、子ども一人一人の持つ可能性にかけて、自分
 で解決してゆく方向に話し合いを持っていこうと心がけておられるとのことでし
 た。アトリエ・ゆうにかかわってきた若者たちをみても本当にそうだなあと思いま
 す。また、相手からどんなに拒絶されても、それを上回る好意を心から持てるかど
 うか、そこが重要なポイントと述べられました。山下さんの日頃の厳しい覚悟が推
 し測られます。これは親子の間でも、なかなかに深刻な課題ではないでしょうか?
  山下さんのお話を聴きながら、私も約30年前のことを思い出しました。当時若々
 しい(失礼!)山下さんの講演会に参加した時のことです。山下さんは穏やかなう
 ちにも情熱をもってお仕事をなさっている雰囲気があったのを覚えています。そし
 て「日本の学校のそばを通ると、音楽の時間に昔ながらの文部省唱歌の歌声が聞
 こえてくる。これでは駄目です」とおっしゃったことが忘れられません。正直のとこ
 ろ、私はそうは思いませんでした。しかし、これは当時の日本の学校教育を何とかし
 て変えたいという熱い思いから出たお言葉と受け止めました。「変化を!」という
 思いがあまって、澱んだ空気を大きな団扇でサッと押し流したかの如くでした。現
 在はどう思っていらっしゃるか、お聞きすればよかったかなと、少し思っています。  
           

   



 ⇐back‐2017年3月号へ‐              2018年1月-NEXT⇒
本文へジャンプ